IoTになる前の時代の通信と計測制御の世界のお話し その3:通信による老人介護サービス

  • 2015/11/21
  • IoT

管理人はかなり以前に通信業界の動向をまとめたことがある。
その内容としては当時かなりコアな位置情報、計測監視、その時点でこれからやってくるであろう新しいサービス等々についてだ。
そのリポートを引っ張り出してみて現在とどう異なるのか?を見てみたいと思った。
このレポートは2003年当時に管理人が執筆したものだが長いのでいくつかに分けてみた。
前回は監視サービスとして2003年当時のものを紹介した
今回は第3弾として老人介護サービスについて記事をアップしてみた。
掲載した文面は2003年当時のそのままなのでご了承いただきたい。

2003年当時の通信による老人介護サービスの現状

老人介護または一人暮らしの老人に関する通信サービスは以前より緊急通報に関するものが存在している。

緊急通報としてのサービス

この分野の通信を利用したシステムは自治体や社会福祉協議会が主体となり高齢者の福祉対策の一環としてサービスが継続されているという背景がある。
これは地方自治体が有線回線を利用した緊急通報システムを構築し、緊急時に家族等に連絡が付く機能や救急車の出動を要請する機能を提供するシステムである。

緊急通報システムの機器構成

機器の構成としては専用の電話機とその子機およびセンサーから構成される。
専用の電話機は緊急ボタンがついており老齢者でも識別ができるようになったものでハンズフリーで通話することも可能である。

子機は常に身につけるようになっておりコードレスのペンダント型をしている。
電話機の緊急ボタンと同様の機能をペンダント型子機に持たせ老人が電話機まで行けない状況に対応している。

またトイレの扉にセンサーを付けるなどして、ある一定時間利用がないと緊急通報を行うオプションを持つものもある。
こういった背景で特に一人暮らしの老人に対する社会福祉的な動きとして発展してきており、本人が操作を行い通知するタイプである。

身近な見守りのサービス

こうしたある程度公的なものとは別に、もう少し身近なサービスが出てきている。
象印の電気ポットにNTTドコモのDopaを組み込み、利用状況を家族などにメールで通知するサービスが開始されている。
このサービスなどは本人が操作するものではなく、家族に安否を通知し遠く離れた場所でも様子が分かるサービスである。
さらに進んで最近ではブロードバンドとロボット技術を利用した双方向のサービスも開始されている。

単純な監視からの脱皮

こうしてみると異常時の通報という必要最低限の機能より発展し、周囲への状況モニター、そしてさらに双方向でのいわばコンサルタントスタイルへと変化してきている。
これは通信技術の発展やハードウェアの進歩とは別に高齢化社会の根本的な問題を考察する必要がある。
監視や通報から、老齢者を介護する側や本人の心のケアまでを含んだところにまで踏み込み、それを通信技術等によって実現化する成熟化社会への流れである。
従ってこういう観点より見てみると要求されているのは音声はもちろん画像や各種センサー情報、あるいは放送に近いコンテンツを扱うようになってきている。
また介護問題では適切な情報が周囲に少なく一人で悩んでしまう場合が多く見受けられる。
こうした老齢者と介護する側の双方のこうした要求を満たすコンテンツを流通させる必要がある。

一般的な老人向け緊急通報システム
↑ 2015年補足:京都市の老人向け緊急通報システム、広く自治体でこういったシステムが採用されている、ただし自宅にいる時でないと機能しないので今となっては実態とそぐわないかもしれない、画像は当時のもの

2003年当時の携帯電話とPHSの画像伝送サービス

画像伝送についてはPHSを使用したシステムがかなり以前から実用化されていた。
当時携帯電話はPDCで9600kbpsの通信速度しか出せなかったからである。
PHSでも32kbpsの速度で音声と動画の両方を送るシステムがあり施設の監視等に使用されていた。
帯域が限られているため音声や動画の圧縮アルゴリズムを工夫したり、双方の帯域の分割を業務に合わせてセッティングをしていた。
このように移動体通信の初期の頃から動画を見たいというニーズは高かった。

一番最初の画像伝送サービス

電話機単体での動画の伝送はDDIポケットのビジュアルフォンが京セラから発売になったのが最初である。
これはPIAFSにより端末機対向の32kbpsスピードでモーションJPEGの動画を伝送していた。
この後電話機で動画を電送できる端末はFOMAを待たなければいけなかった。

DDIポケットの動画端末である京セラビジュアルフォン
↑ 2015年補足:DDIポケットの動画端末である京セラビジュアルフォンVP-210、1999年に発売された、通信方式はPIAFSで32kbpsで通信を行う、対向だが動画が送れる初めての端末だった、画像は当時のもの

フォーマのP2101Vという動画端末
↑ 2015年補足:フォーマのP2101Vという端末、2001年に発売され当時のあらゆる技術を詰め込んだハイエンド端末だった、画像は当時のもの

ネットワークカメラの登場

ブロードバンドの普及からIPベースのWEBカメラまたはネットワークカメラと呼ばれるWEBサーバー内蔵のものに主流が移ってきている。
最近1~2年の間に多くの機種が登場している。
またその画像は画素数から精緻なものではないが(おおむね100万画素以下)、安否確認という観点であれば十分実用になる。
従ってこのようなカメラの登場が監視カメラではなく、もう少し画質の低い安価な動画及び連続静止画伝送というニーズを掘り起こしたという事ができる。
製品としては松下製のネットワークカメラが非常に低価格で発売になり(およそ5万円以下)、潜在需要を掘り起こしネットワークカメラを一般的にした。
介護という観点からみれば本人が操作することは事実上不可能と思われるのでこうしたネットワークカメラが主流である。
松下のWebカメラ
松下のみえますネット
↑ 2015年補足:松下のネットワークカメラが低価格で登場したの画期的だった、しかし新しい商品だけに使い方も含めて提案しないといけなかった、最初からこうしたカメラとネットワークのセットとなっていた、画像は当時のもの

2003年当時の通信による老人介護サービスの具体的ソリューション

すでに様々な分野で通信を使用した独居老人や介護向けのシステムが実用化されている。
具体的な例を示して応用例を示す。

本人向け

最近の試みとしてロボット型のテストケースが散見される。
これはブロードバンドに接続され、センサーやスピーカーマイクを内蔵した双方向性のあるものである。
愛らしい動物や親しみやすいロボットの外見を持ち、人感センサーで帰宅や起床を関知して、それにふさわしい内蔵された言葉をかける。
一人暮らしでも安心感、親近感を与えるように考慮され、一定時間活動がないとセンターのオペレーターより声をかけることができ、その反応次第では緊急通報もセンターより可能である。
代表的な例として大阪府の池田市などがこうしたロボット型の取り組みをしている。
池田市の介護ロボット
池田市の介護ロボットネットワーク
↑ 2015年補足:池田市の介護ロボットとそのネットワーク、ロボットと言っても動くわけではないが各種センサーで状態を把握する、オペレーターが声を掛ける事も可能、画像は当時のもの

家族向け

前項でも紹介した象印のDopa内蔵湯沸かしポットのように、情報収集したデータを送信することで活動状況を通知する。
このような見守り型のサービスはユニークなポット型だけではなくセンサーを応用した商品サービスが数多く存在する。
こうしたサービスの増加は、介護を必要とはしないが万一の時を心配する家族の為のサービスである。

象印のみまもりホットライン
↑ 2015年補足:象印のみまもりホットライン、このサービスは現在でも健在だ、シンプルだが普段意識する事も無く自然に使用できる、カメラが入っていたりあまり高機能だとなんだか見られているようで身持ち悪いという印象もあるかもしれない、画像は当時のもの

補充

自宅で酸素吸入を行う際のボンベの重量を計測し、その結果より残量を判定して、残りが少なくなったら通報がセンターに発信される。
センターはその通報を受けて酸素ボンベの補充を行う。
介護を行う家族が残量をチェックするのだが、ポカミスを防止できる。
こうした分野は医療とオーバーラップする部分もある。

位置情報

施設に入っている痴呆老人が施設から出て迷子になったときのために位置情報を取得できるPHS端末を身につけている。
施設内ではその中にいるかどうか確認することができる。
出入口より外に出た場合は、出たことが分かるようになっており係員に通報を行う。
施設の外では公衆の位置情報を生かして、おおよその位置が分かり捜索の補助としている。

2015年から見た2003年の通信による老人介護サービスの感想

動画を扱うようになると時代を感じる。
コーデックによる動画の圧縮率が上がった事や通信スピードが向上した事でより精細な動画が送れるようになった。

一方、独居老人や介護、徘徊といった部分に利用するサービスはあまり進化していないように思える。
徘徊老人に通信端末を持たせて位置を特定するというお話もめっきり聞かなくなった。
単純な見守り型のサービスのほうが利用者にも分かり易くシンプル安価で良いのかもしれない。

今回はこのへんで
では