IoTになる前の時代の通信と計測制御の世界のお話し その1:位置情報サービス

管理人はかなり以前に通信業界の動向をまとめたことがある。
その内容としては当時かなりコアな位置情報、計測監視、その時点でこれからやってくるであろう新しいサービス等々についてだ。
そのリポートを引っ張り出してみて現在とどう異なるのか?を見てみたいと思った。
このレポートは2003年当時に管理人が執筆したものだが長いのでいくつかに分けてみた。
掲載した文面は2003年当時のそのままなのでご了承いただきたい。

2003年当時の位置情報サービスの現状

位置情報サービスはPHSがその小さなエリア作りの特徴を生かして先行してサービスを開始している。
代表的なものにNTTドコモのいまどこサービスがある。
また携帯電話ではJ-フォンが端末機に通話した場所の履歴を残すサービスがある。
また昨年からAUがGPSケータイと組合わせたGPS MAPというサービスを開始している。

自者位置と他者位置

位置情報には自者位置と他者位置検索があり、前者は自分のいる位置を検索するものであり、後者は第3者が位置検索するものである。

自者位置検索の場合は、自分の位置を何らかの操作で取得しそのデータをセンターに送信して利用するか、地図上に表示して自分をナビゲーションするような用途に使用する。

一方他者位置検索は第3者が端末機の位置を検索しそのデータを利用する。
ここには非常に微妙な個人情報を含む情報を扱うという問題があり、こうしたシステムを利用または構築する場合にはこのあたりをクリアする必要がある。

例えば会社から支給された端末機を持って営業活動に出かけている営業マンを想像してもらうと分かりやすい。
会社では一定時間ごとに端末機の位置取得の要求を出し、それに各営業マンが持っている端末機から位置情報が集まってくる。
この際に営業マンは自分の位置を管理され、仕事とは関係の無いとんでもない場所にいることが発覚すると、その情報がもとで何らかのおとがめがあるかもしれない。

これは位置情報を取得する側が、位置情報を取られる人に位置情報を取得されることに対して承諾を得る必要がある。
こうした微妙な問題点をクリアすると一定時間ごとあるいは任意のタイミングで位置を取得することが可能となる。

位置情報取得方法

位置情報の取得方法であるが、PHSの場合は受けている電波がどこの基地局の電波か、またその強さという2つの要素の組み合わせを1つまたは複数を利用する。
この基地局のコードを基地局データベースに問い合わせを行いXYの座標位置(一般的に緯度経度、または住所)を取得する。
もちろん複数の基地局の情報を利用するほうが精度は高くなる。

PHSの特徴としてショッピングセンターや地下街というようなGPS衛星の電波が届かない場所でも位置を特定することができるという特徴がある。
現在のところ、こうした方式で最大40メートル程度の精度で位置情報を取得可能である。

これに対して携帯電話の位置情報取得方法はGPSと基地局利用のハイブリッド型である。
GPS衛星の電波が届く場所であれば数メートルの精度で位置情報が取得可能だが、届かない場所であれば基地局の電波からPHSと同じ方式で場所を特定する。
この際に携帯電話の基地局のカバーする範囲はPHSより大きいので位置情報精度はGPSと比較するとかなり劣ってしまう。
位置情報サービスはPHSサービス開始後しばらくしてサービスとして提供されていたが、商業的に成功とはいえなかった。

サービス中の位置情報

しかし現在のNTTドコモが1998年にいまどこサービスとしてソリューションとして提供してからは少しづつ利用が伸びていった。
現在ではさらに各PHSキャリアよりこうしたパッケージサービスあるいは技術情報開示を伴ったサービスとして提供されている。

また冒頭にも述べたAUのGPS MAPが発表されてから、気軽に使える位置情報サービスとしてさらに需要を喚起している。
データ通信が高速化し地図の画像をやり取りできるようになったことや、端末機自体に地図データを表示できるようになったことで新たな展開が見込まれている。
個人情報保護の問題はあるが、コンシューマーや法人においてもこうした位置特定の潜在ニーズは高くキャリア側もより利用しやすい環境構築を急ぐべきであろう。

2003年当時の位置情報サービスの具体的ソリューション

位置情報サービスは公衆網を利用したものと自営網を利用したものがある。

特定エリア内での位置情報

公衆網を利用した位置情報サービスは前項の通りであるが、特定のエリア内での位置情報もよく利用されている。
例えば工場内や病院内で特定エリア内に立ち入るとシステムが認識し、入出退管理を行うものや公の場所で特定エリアに近づくと情報配信されるようなシステムもある。
ほとんどがPHSを利用した事例で、携帯電話としてはGPSの機能が組み合わせられて初めて位置情報サービスを提供できるインフラが整ったことになる。

コンシューマー向け位置情報サービス

コンシューマー向けサービスとしては、特定の端末機を持った人の位置をセンターに問い合わせることによりオペレーターが答えるサービスがある。
主に子供や老人の安否確認に使用され、代表的なものとしてNTTドコモの「いまどこサービス」、DDIポケットを使用した東芝ロケーションインフォ「e-Location」等がある。

法人向け位置情報サービス

法人向けにはこれを発展し顧客事務所より複数の端末機の位置問い合わせをまとめて行い、検索結果も地図上に表示させるものがよく使われている。
現在ではインターネット経由での問い合わせ結果の検索が可能となっている。

開発を伴う位置情報システムへの対応

また開発を伴うシステム用として開発用ベースモジュールの提供や構築後の位置問い合わせセンター機能をサービスしているものもありユーザーは選択することができる。
これらは様々なプラットフォームに対応した開発モジュールがあり、PCはもちろんのことPDAにも広範囲に対抗している。
提供パッケージはベースモジュールとしてアプリケーションより呼び出され、位置情報機能をアプリケーションに対して提供する。

通信キャリア自身の位置情報開発サポート

これらとは別にPHSキャリア自身が位置情報機能を使用したシステムの開発サポートを行うこともある。
端末と基地局間の位置情報機能の情報公開や基地局データベースの開示を行いユーザーの開発をサポートする。
これらは問い合わせをすると結果が返されるシステムであるが、PHSの定額制サービスを利用した非常に短いインターバルでの位置情報システムも現れている。
これは位置補足をPDAとGPSで行い10秒程度の間隔で側位し定額制PHSにて通知するものである。
いわばモバイルでの常時接続モデルで動態の位置管理をリアルタイムに行うものである。
こうしたことにより位置情報をリアルタイムで取得し地図上にプロットすることにより、より詳細な動態管理ができるわけである。
この例は主に車両に搭載され運行管理に使用されている。
また列車管理でも同じくGPSとPDAの組み合わせにて正確な位置情報を把握することにより工事などの保線作業に反映させる試みも出てきている。
機器監視分野では重機の監視等に使われ始めている。
これは主な目的が稼動ログを収集することであるが重機は動くものなので位置情報を付加して現在どこにあるのかを監視できる。
最近多い重機の盗難等に効果を発揮する。

ハードウェア構成

PHSを使用した位置情報システムのハードウェア構成としては次のようなものがある。

端末機単独で処理するもの。
通常のPCまたはPDAと通信カード等のモバイルの形式をとるもの。
これにGPSとPDAに通信カードを組み合わせる場合がある。

また最近では次項の機器監視用テレメタリング端末に位置情報を持たせたものもある。

通信方式

位置情報に関する通信の方式としては、次のものが挙げられる。
PHSの場合は補足している基地局のIDとそれぞれの電界強度をセンター宛に送る必要がある。

自者位置を送り出す場合はオペレーターが何らかの操作を行い、これをトリガーとして位置情報取得を行いそのデータを送出する。
他者位置の場合は外部より何らかのトリガーを与え、それにより位置情報を取得して送出する仕組みが必要である。

これには現在UUIが使用されることが多く、いわばショートメッセージである。
端末機にショートメッセージを送りつけ、端末機はこのショートメッセージの内容をから位置情報を返すかどうかを判定して動作する。

コンシューマー用位置情報コンテンツ

コンシューマー向けコンテンツとしては、周辺情報検索や乗換え案内等があり、比較的個人情報の管理の楽な自者位置を利用したものが大半である。
また車載ナビゲーション等と組み合わせグループのメンバーがどこにいるのかを地図上で表示する機能を持つナビゲーションも発売されている。
いずれにしてもユーザーが使いやすく安価な価格での位置情報提供はこれからの課題である。
GPS携帯とPHSの位置精度上の相違はあるが、いずれにしても実質的なコンテンツもしくはサービスを提供すればマーケットは拡大するものと思われる。

位置情報サービスの参考資料

位置情報サービス関連の参考情報として次のものを上げる。
ドコモのいまどこサービスの仕組み
↑ 2015年補足:ドコモのいまどこサービスの仕組み、端末の位置は位置情報センターに蓄えられる、位置情報を要求する側はインターネット上のコンテンツとして見ることができる、画像は当時のもの

法人向けのいまどこサービスの提供内容
↑ 2015年補足:法人向けのドコモいまどこサービスの提供内容、いまどこセンターに蓄積された位置情報を各種システムに組み込んで利用可能な仕組みがあった、オリジナルの位置情報を組み込んだソリューションを作ることが可能だった、画像は当時のもの

東芝ロケーションインフォが提供していた位置情報の仕組み
↑ 2015年補足:DDIポケット網を利用した東芝ロケーションインフォが提供していた位置情報の仕組み、PHSの位置特定は複数の基地局を利用する、各端末の位置情報をセンターに蓄積して利用できる、画像は当時のもの

2015年から見た2003年の位置情報サービスの感想

位置情報を広い場所と狭い場所に分けて考えてみると現代でも同じなのだ。

広い場所の位置情報

現代の広い場所向けの位置情報は完全にGPSが主流になっている。把握した位置情報を地図にプロットするとか蓄積するGPSロガーも個人で手に入れる事が出来る。
管理人の持っているコンデジにもGPSが入っていて画像に座標が入るのだ。

またGoogleなんかはこの位置情報を非常に重要なデータと考えていて有線のインターネットでも位置を特定するようになっている。
検索するとその周辺のお店情報なんかが出てくる。
もちろんスマートフォンからのアクセスも位置情報として蓄積されているので軌跡を書いてみると恐ろしい事になる。
だれがどこからどこに何時に移動したなんてデータを沢山持っているのだ。

狭い場所の位置情報

こちらは少し進んでiBeaconのような考え方も出てきているが基本技術はそれほど変わらない。
問題はこうした位置の把握方法ではなく、集めたデータの利用方法なのだ。

データの使い方が鍵となる

次の項目がポイントだと思っている。

  • こうした位置情報のようなデータをたくさん集める事が出来る事。
  • 集めたデータを生かす方法を確立する事。

この2つが関連して沢山のデータを利用したソリューションが出来上がっていくのだ。
基本的には技術論としては変わっていないが利用方法に新しい付加価値を付けていくことがより大切だ。

今回はこのへんで
では